熱中症は後遺症が残ることも。
症状・応急処置・翌日の過ごし方を解説
熱中症は後遺症が残ることも。
症状・応急処置・翌日の過ごし方を解説

梅雨や夏など、高温多湿な環境になりやすい現場では、作業員の安全管理と体調管理には注意が求められます。特に熱中症は年齢や性別を問わず、誰でも直面する可能性がある身近な健康トラブルです。熱中症は一時的な体調不良として軽く捉えられがちですが、命に関わる事態に発展したり、回復後に後遺症が出たりするケースもあり、長期間にわたって作業や日常生活に影響を及ぼす可能性があります。
そのため、熱中症に対する正しい知識を身に付け、現場での予防措置や熱中症発症後の適切な対処法を実践することが、働く方の命と安全を守るうえで大切です。本記事では、熱中症の後遺症にかかわる基礎知識をはじめ、熱中症になりやすい方の特徴や応急処置のポイント、回復までの注意点、普段からできる予防について解説します。
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名古屋市立大学卒業/関連病院、ワシントン(DC)ホスピタルセンター循環器内科、豊橋ハートセンター、名古屋市立東部医療センター(現名古屋市立大学医学部附属東部医療センター)などを経て、医療法人三九会 三九朗病院循環器内科勤務中(2026年8月時点) |
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この記事はメディコレWEBを通じた医師監修を受けています。 |
熱中症は後遺症が出ることがある
熱中症は症状に気付くのが遅れたり、適切な処置を怠ったりすると命に危険が及んだり、回復後も後遺症が出るような深刻な事態に陥ることがあります。熱中症が疑われる場合には、単なる夏バテや一時的な症状として軽く捉えるのではなく、全身の組織や機能に深刻なダメージを与えうる危険な状態であることを正しく認識し、迅速に対処しなければなりません。ここでは熱中症の定義をはじめ、重症度による症状と分類、そして起こりうる後遺症をご紹介します。
熱中症とは
熱中症とは、高温多湿な環境に体が適応できなくなることで発症する病気です。通常、私たちの体には体温を一定に保つ体温調節機能が備わっています。そして、環境温度や運動によって体温が上昇すると、皮膚の末梢血管を拡張させて体内の熱を体外へと逃がしたり(熱放散)、汗をかいたり(気化熱)することによって、体温が上昇しすぎないように調節しています。
しかし、工場や屋内作業場など熱がこもる環境で作業をしたり、炎天下の屋外現場で激しい肉体労働を続けたりすると、大量の汗をかくことによって脱水状態に陥ります。そうすると、次第に汗が出にくくなることで体内に熱がこもってしまい、熱中症を引き起こします。
熱中症の症状と分類
熱中症の症状は多岐にわたりますが、2024年に改訂された最新の「熱中症診療ガイドライン」では、重症度に応じて4段階に分類されています。初期の段階であるⅠ度(軽症)では、意識がはっきりしているものの、めまいや立ちくらみ、筋肉痛や筋肉の硬直、大量の発汗といった症状が見られます。涼しい場所へ避難して服をゆるめて体を冷やし、水分や塩分を補給する応急処置が必要です。
症状がⅡ度(中等症)に進むと、頭がガンガンするような頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下が見られます。この症状の場合は速やかに医療機関を受診し、必要な処置を受けなければならない段階です。さらに症状が進んだⅢ度(重症)は、命に関わる極めて危険な状態です。意識が朦朧としている、あるいは意識がない状態や全身のけいれん、まっすぐ歩けないなどの症状が見られ、救急車での搬送が必要です。分類の中でも最も症状の重いⅣ度(最重症)では、身体の深部体温が40.0度以上に達し、速やかに集学的治療を開始する必要がある状態です。
熱中症は軽症であっても、対処せずにそのまま放っておくと時間の経過とともにⅡ~Ⅲ度、Ⅳ度へと進行するため、注意が必要です。

参考:日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2015」「熱中症診療ガイドライン2024」
参考:保健医療科学「熱中症診療ガイドライン2024の作成経緯とその特徴」
熱中症で後遺症が起こる仕組み
熱中症は、より早期の段階で適切に対処することで回復に向かうことが多いものの、現場対応が遅れて重症化した場合には、命が助かっても後遺症が残ることがあります。これは、熱中症に伴う40度を超えるような体温の異常な上昇や脱水状態が長時間続くことによって脳や神経の細胞がダメージを受けてしまうからです。特に脳の神経細胞は一度傷付くと修復や再生が難しいため、一見すると体調が戻ったように見える場合でも、長期的な影響が残るリスクがあります。
熱中症の後遺症として見られる症状
熱中症がもたらす後遺症は、特にⅢ度以上の重症例で、医療機関での急性期治療を終えて退院したケースなどで報告されています。熱中症の後遺症として代表的なものには、脳の神経が熱でダメージを受けることで生じる神経症状や精神症状が挙げられます。
具体的には、脳が受けたダメージによって体のバランス感覚が乱れてふらついたり、手元が細かく震えたりする症状が出ることがあります。また、「物覚えが悪くなる」「集中力が続かない」といった症状により、現場の作業やチェックに支障をきたすことも少なくありません。
こうした症状が残ると、体力や技術があっても以前のように現場で安全に動くことが難しくなる場合もあります。
そもそも熱中症はどのような方がなりやすいのか
熱中症は同じ現場環境にいても、作業員の体の特徴や日々の体調、作業時の負荷の状態によって発症リスクに差が生じます。そもそも高齢の方、肥満の方、運動習慣のない方、暑さに慣れていない方、病気の方、体調の悪い方は熱中症になりやすいといわれています。特に肉体労働の現場において考慮すべき点は、個々の体調や作業時にかかる肉体的負荷によって発症リスクが異なるという点です。
体調に関しては、寝不足や二日酔いによる体調不良の方や、病気回復後や下痢などで脱水傾向のある方などは、熱中症になりやすいため配慮が必要です。また、休暇明けで久しぶりに現場作業する方や新入社員などは、暑さに体が慣れるまでは熱中症になりやすくなります。
一方、作業時にかかる負荷に関しては長袖長ズボンやグローブ、マスク、ヘルメットの着用によって熱がこもりやすい服装の方、長時間の屋外作業や激しい肉体労働をする方は体温が上昇しやすく、熱中症になるリスクが高まります。
これらの要因が複数組み合わさると、熱中症になるリスクはさらに高くなります。
後遺症を出さないためにも、熱中症は応急処置が大事
現場で熱中症が疑われるケースが発生した際、大切な命を救い、さらに後遺症のリスクを最小限に抑えるためには、迅速な応急処置が重要です。作業員が体の状態変化に気を配るとともに、周囲の同僚や現場責任者もまた互いに気を配りながら、異変に気付いた時にはためらうことなく適切な応急処置を開始することが、熱中症およびその後遺症を防ぐ対策となります。
熱中症が疑われる場合の重症度別の応急処置
熱中症が疑われるケースが発生した場合は、重症度に応じた適切な応急処置を施すことが大切です。まず呼びかけに対してはっきりと意識があり、応答が正常である場合はⅠ度(軽症)と判断できます。速やかに日陰やエアコンの効いた室内などの涼しい場所へ避難させ、衣服をゆるめて体の冷却を開始します。そして、十分な水分と塩分を摂取させて様子を見ましょう。
この時、自力で水分がとれない場合はⅡ度(中等症)以上の疑いがあります。点滴などの処置が必要になるため、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。また、呼びかけに対して意識が朦朧としている場合や反応がおかしい時、意識がないなどのⅢ度(重症)以上の兆候が見られたら、ただちに119番通報を行って救急車を呼びましょう。救急隊が到着するまでの間も、現場にある水や氷を活用して全身の冷却を続けましょう。

出典:環境省「熱中症環境保健マニュアル 2022」
応急処置で実行すべき3つのステップ
熱中症が疑われる時の応急処置は「1.涼しい場所へ移動する」「2.衣服を脱がして体を冷やす」「3.塩分・水分を補給する」の3つの行動が基本です。重症化や後遺症を防ぐには、この順番でできるだけ早く対応することが大切です。各ステップを以下で詳しく解説します。
1.涼しい場所へ移動する
現場で熱中症が疑われる方を見つけた際は、まず作業環境から避難させましょう。直射日光が当たる屋外や、熱気がこもっている屋内の作業場から、ただちに移動させます。避難先はエアコンが効いた屋内や車の中などが理想です。ただし難しい場合は、屋外であれば休憩所や建物、樹木の影などできるだけ風通しの良い涼しい日陰を選んで安全に寝かせます。
2.衣服を脱がし、体を冷やす
次に、体温を下げるために冷却を行います。安全帯やグローブ、ヘルメットなどの装備を外して衣服を脱がし、皮膚からの熱の放出を助けます。露出させた皮膚に冷たい水をかけ、うちわや扇風機で風をあてることで、気化熱を利用して効率よく体温を下げましょう。首の両脇、脇の下、太ももの付け根など、太い血管が通っている場所に氷枕や保冷剤、冷えたペットボトル、濡れタオルをあてて血液を冷やすことも大切です。
3.塩分・水分を補給する
本人の意識がしっかりしており、自力で飲み物を口にできる状態であれば、速やかに塩分と水分をとりましょう。できれば、スポーツドリンクや経口補水液など、塩分と糖分が適度にバランスよく含まれている飲料を補給します。ただし意識が不明瞭だったり、吐き気があったりするなど自分で飲めない時は誤って水分が気道に入る危険性があるため、無理に飲ませることはやめ、医療機関での処置を受けましょう。
現場で働く作業員や監督者、事業者向けの熱中症対策については、以下の記事をぜひ参考にしてみてください。
>> 「工場・建設現場の熱中症対策。検討すべきこと、必要な視点、労働現場で役立つ対策グッズを解説」の記事へ
熱中症の翌日に注意したい症状と回復期間中の過ごし方
熱中症になった際、現場での迅速な応急処置によって症状が和らいだとしても、翌日の過ごし方には注意が必要です。見た目は回復したようでも、熱中症によるダメージの影響が翌日以降も残ることがあります。ここでは、熱中症から完全に回復するまでの間の注意点や過ごし方について解説します。
熱中症回復中の注意点
通常、熱中症は症状が回復していれば、翌日は普段通り過ごせます。熱中症にかかった翌日にふらつきや食欲低下、吐き気などがなければ、普段通りに生活して問題ありません。しかし一部では、翌日になってもだるさや頭痛などの不調が残るケースがあります。熱中症回復中には「症状がひどくなっていないか」、あるいは「翌日も何らかの症状が残っていないか」留意して過ごしましょう。
ただし、熱中症にかかった時と同じような環境で過ごしていると、再び熱中症にかかってしまうリスクがあるため、こまめに水分と塩分を補給し、エアコンや冷却グッズで環境を整え、熱中症を防ぎましょう。
少しでも違和感や不調がある場合は医療機関へ
熱中症を発症した翌日も、体調が優れない場合や頭痛・吐き気が治まらない場合は、体にダメージが残っている可能性があります。症状が残る場合は、遷延症状や後遺症につながるおそれもあるため、少しでも体に違和感や不調がある時は自己判断せず、医療機関を受診して医師の診察や適切な処置を受けましょう。
2025年6月から熱中症対策が義務化されている
2025年6月1日より改正労働安全衛生規則が施行され、職場における熱中症対策が法的義務となっています。これまでは厚生労働省の「職場における熱中症予防対策指針」などに基づいた努力義務でしたが、この改正により、事業者は一定の基準に従った措置を講じることが法的な義務として明確に位置付けられました。
具体的には、WBGT値(暑さ指数)の把握や、それに基づく作業の管理、労働者への教育、さらには緊急時の対応体制の整備などが求められます。事業者にとっては、これまでの自主的な取り組みから、法的根拠に基づいた安全管理体制の構築へと移行が求められる重要な転換点です。
事業者が講ずべき措置(WBGT値の測定や必要な対応の整備など)に違反した場合、「6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される」おそれがあります。また罰則以上に、企業にとって大きなリスクとなるのが「安全配慮義務違反」による民事上の責任です。仮に、熱中症で労働者が死亡または重い後遺症を負った場合、企業が適切な対策を講じていなかったと判断されると、多額の損害賠償を請求される可能性があります。
熱中症対策義務化について詳しく知りたい方は、以下の記事をご参考ください。
>> 「2025年6月から熱中症対策義務化!違反した場合の罰則や、対策の基本的な考え方、環境・個人への投資について解説」の記事へ
熱中症を予防するために普段からできること
熱中症の危険から身を守るためには、日頃からの対策が欠かせません。梅雨明けや夏場、長期休暇明けなど、体が暑さに慣れていない時は特に注意しましょう。基本的な対策は、暑さに負けない体づくりです。規則正しい食生活と睡眠習慣、適度な運動を実践し、暑さに備えましょう。
また、こまめな塩分・水分摂取の習慣を身に付けることも大切です。のどの渇きを感じる前に、適度な塩分と糖分を含むスポーツドリンクをこまめに摂取し、汗で失われる塩分と水分を補給するようにしましょう。そして、現場や作業中に気を付けたいことは、「いま自分のいる環境がどのような状態なのか」を知り、体調変化に気を配ることです。現在の気温または室温、湿度を温湿度計でモニタリングし、危険を感じたら涼しい環境に一時的に退避するなどの対策をしましょう。
近年では、現場の環境や作業負担に応じたさまざまな「暑さ対策グッズ」が開発されています。例えば、首元の太い血管を効率よく冷やす冷却用のネックリングや、ファン付き作業服、さらには氷や保冷剤、冷水を活用して体を直接冷やす冷却ベストなど、いろいろな選択肢が存在します。これからの過酷な業務を安全に乗り切るために、冷却アイテムを試してみましょう。
よくあるご質問(FAQ)
ここでは、熱中症の後遺症に関するよくある質問にお答えします。
Q1:熱中症の後遺症はどのくらい続くの?
A1:熱中症の後遺症は、倦怠感やめまい、頭痛などであれば数週間から半年、長い場合は数年にわたって続く可能性があります。ただし継続期間は、脳や神経、全身の細胞が受けたダメージの程度によって個人差が大きく、明確なデータは存在していません。また、熱中症そのものの症状が重症で、応急処置までの時間が長くかかってしまうほどダメージも大きくなるため、生涯にわたって記憶障害や運動機能障害が残ってしまうケースもあります。初期段階でいかに早く適切な応急処置を行えるかどうかが、後遺症の程度や期間を左右します。
Q2:熱中症の後遺症は何科を受診すればいいの?
A2:まずは、かかりつけ医などの総合診療科や内科の医師または産業医に相談しましょう。運動機能障害や、意識障害、強い頭痛、めまいなどが続く場合は脳や神経を扱う脳神経内科や神経内科の受診が必要になるケースもあるため、体の状態に合わせた専門の医療機関を紹介してもらいましょう。
Q3:熱中症の後遺症が出やすい方は?
A3:熱中症の後遺症は、稀にⅠ度(軽症)やⅡ度(中等症)の方でも現れることがありますが、主にⅢ度(重症)やⅣ度(最重症)まで進行してしまった方に現れやすい傾向があります。現場で意識を失っている時間が長く、応急処置や医療機関への搬送が遅れた場合は症状が進むため、後遺症のリスクが著しく高くなります。現場全体で熱中症の早期発見に努め、一刻も早く応急処置を行うことが、後遺症のリスクを低減させるために重要です。
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