【夏前に準備】
2026年夏に備える
工場の熱中症対策チェックリスト

2025.10.26

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夏場の工場や物流倉庫は暑さとの闘いです。2025年も各地で記録的猛暑となり、「次の夏は大丈夫かな…」と不安に思う方も多いでしょう。夏前からしっかり準備を進めれば、2026年の酷暑にも負けない万全の暑さ対策が可能です。

本記事では、工場の熱中症対策について管理者向け・作業者向けのチェックリスト形式で具体策を解説します。ぜひ参考にして、今年の暑い夏を乗り切る準備を始めてみてください。

工場の熱中症対策は夏前から行うべき理由

熱中症対策は夏本番を待たずに夏前から始めることが重要です。理由を大きく3つに分けて解説します。

対策方法によっては導入に時間がかかる

工場で設備面の熱中症対策を行う場合、内容によっては夏直前に決めて工事を始めても間に合わない可能性があります。

屋根への遮熱塗装や大規模な換気設備の設置などは、施工の手配から完了までに数週間から数ヶ月を要するからです。塗装工事なら事前調査・塗装・乾燥・効果確認まで長めの工程ですし、新たな冷房設備の導入でも試運転まで時間がかかります。

さらに、設備導入にあたって厚生労働省管轄の補助金を活用する場合、申請書類の作成や審査・交付決定といった手続きを経て工事契約・施工に進むため、想定以上の日数が必要なケースもあります。

日本は夏前でも猛暑日が多い

近年は全国的に夏本番前から真夏日(最高気温30℃以上)や猛暑日(35℃以上)が増えています。

身体が暑さに慣れていない時期は熱中症になるリスクが高いため、夏前に対策を万全にしておくことが大切です。

なお、2025年6月1日に施行された労働安全衛生規則改正によって、暑い環境下での熱中症対策が事業者の義務となりました。屋内外を問わずWBGT値(暑さ指数)が28℃以上(または気温31℃以上)の環境下で連続1時間以上作業する職場では、暑さ対策の計画・手順書を整備し、従業員に周知することが求められます。

夏前の猛暑日に対策が間に合わないと、「必要な措置を講じていない」と見なされ、労働基準監督署から是正指導を受けたり、最悪の場合50万円以下の罰金等の罰則が科せられたりするリスクもあります。

出典:厚生労働省 鹿児島労働局「職場における熱中症対策の強化について

工場内は屋外よりも過酷になりやすい

工場内の作業環境は構造的な要因により、屋外以上に暑くなりやすい環境です。鉄骨構造や金属折板屋根は直射日光を受けて60~80℃に達することがあり、強力な輻射熱を発生させます。

工場内で暑さが増大する主な要因は以下のとおりです。

● 金属屋根からの輻射熱
● 機械・装置からの排熱
● 通気性の悪い構造
● 搬入口の開放による熱気侵入
● 断熱材の不足

物流倉庫などでは「屋内だから安全」という考えは危険です。実際に測定すると外気温より5〜10℃高い環境になることも多く、適切な対策なしには作業者の熱負荷が屋外作業以上に高まってしまいます。工場特有の熱環境を理解した対策が不可欠です。

夏に備えるための熱中症対策チェックリスト

効果的な熱中症対策を実現するには、管理者側の環境整備と作業者個人の準備の両方が欠かせません。以下のチェックリストを活用して、それぞれの立場で必要な対策を確実に実行していきましょう。

管理者向けチェックリスト

工場管理者が責任を持って実施すべき対策項目をまとめました。法令遵守の観点からも必須となる項目が多いため、計画的に進めることが大切です。各項目の具体的な実施方法と注意点を詳しく説明していきます。

WBGT値の確認

暑さ指数(WBGT値)の測定は2025年6月から企業に義務付けられた対策です。気温・湿度・輻射熱を総合的に評価する指標で、熱中症リスクをより正確に把握できます。

WBGT測定で必要な準備は以下のとおりです。

  • ● JIS Z 8504およびJIS B 7922適合の測定器を準備
    ● 作業場所ごとの測定ポイントを設定
    ● 朝礼時・昼礼時・午後の定時測定ルールを策定
    ● WBGT値28℃以上時の作業制限手順を作成
    ● 測定結果の記録・保管体制を整備
  •  
  • 工場内は場所によって温度差が大きいため、屋内の複数箇所でWBGT値を測定することが大切です。機械近傍や屋根直下など、局所的に高温になりやすいエリアも測定対象に含めましょう。

    換気・送風設備の点検

    工場内の熱中症リスク軽減には換気による熱の排出が効果的です。夏前の設備点検で動作不良を発見・修理しておくことで、暑さが本格化する前に万全の体制を整えられます。

  • 点検すべき設備と確認項目は以下のとおりです。

  • 設備種類 確認項目
    換気扇・排気ファン 動作確認・異音チェック・羽根の汚れ除去
    ダクト・配管 詰まり・損傷・接続部の緩み確認
    フィルター 目詰まり・汚れ・交換時期の確認
    大型送風機 風量・振動・電流値の測定

     

    作業時間のシフト管理

    設備投資に加えて、作業スケジュールの調整による暑さ対策も効果的です。人的管理の工夫により、コストをかけずに熱中症リスクを軽減できます。

    シフト管理で実施したい対策は以下のとおりです。

    • ● 高WBGT時間帯の作業時間短縮(連続作業45分→30分など)
      ● 休憩時間の増加(2時間おき→1時間おきの休憩)
      ● 暑さピーク時間帯(12~15時)の重作業回避
      ● 早朝・夕方への作業時間変更
      ● 高齢者・持病のある作業者への配慮

    シフト変更は従業員の生活リズムにも影響するため、事前の相談と段階的な導入がおすすめです。労働組合がある場合は十分な協議を行いましょう。

    熱中症発症時の緊急対応体制の見直し

    万一の熱中症発症に備えた緊急時対応体制の整備は、法改正でも手順作成と周知が義務付けられています。迅速で適切な対応により重篤化を防げるため、全従業員が理解できる体制づくりが必要です。

    緊急対応体制で整備すべき項目は以下のとおりです。

    対応項目 内容
    救急搬送ルート 最寄りの医療機関・救急車要請手順・搬送経路の明示
    応急処置マニュアル 冷却方法・水分補給・意識確認の手順書作成
    社内連絡フロー 発見者が速やかに現場責任者や管理担当者へ連絡し、状況に応じて医療機関や救急へ即時連絡できる体制を整備
    定期訓練 月1回の緊急時シミュレーション実施


    お、熱中症対応マニュアルを作成する際は、下記2つの記事を参考にしてください。

    >>【企業向け】熱中症対応マニュアル|緊急時の手順・応急処置・労災対応まで徹底解説

    >> 熱中症の疑いがある部下への対応フロー|初期症状の具体例と現場での応急処置を解説

    作業者向けチェックリスト

    工場での暑さ対策は管理者による環境整備だけでなく、作業者個人レベルでの準備も大切です。作業者に対してできる対策をしっかり実施することで、熱中症リスクをさらに軽減できます。

    冷却ベスト・ファン付きウェアの準備

    工場での暑さ対策グッズとして、個人装着型のグッズが注目されています。適切な製品を選んで導入することで、体温上昇を効果的に抑制できます。

    暑さ対策におすすめの暑さ対策グッズは以下のとおりです。

    グッズ 特徴 着用タイミング
    冷却ベスト(保冷剤タイプ) 胸・背中を冷却し、体温の上昇を抑える。 高WBGT環境下での作業時。製品によっては粉塵が舞う現場でも使用可。
    ファン付き作業着 肩や背中に風を送り、身体の熱を外に逃がす。 高WBGT環境下での作業時。
    ネッククーラー 血流が多い首を冷却し、体温の上昇を抑える。 休憩時・作業間のクールダウン。製品によっては作業中も使用可。
    メディエイド アイシングギア ベスト2 ペルチェ素子で冷やした水が循環することで背中を中心に身体を冷却し、酷暑環境下でも冷感を維持できる。 酷暑・高WBGTでの特に厳しい現場で長時間の作業時。粉塵が舞う現場でも使用可 。

     

    メディエイド アイシングギア ベスト2」は、ペルチェ素子によって冷却された水がベストに内蔵されたパッド内を循環し、人体を快適な温度に保つ水冷式の冷却服です。

    当社独自の特許取得済のアイシング技術 で、タンクレスながらも広範囲かつ効率的に人体を冷却し、着用した人が快適と感じる温度管理と、作業性・可動性の両立を実現しています。

    医療機器やサポーター製品で培った技術を詰め込んだ、日本シグマックスこだわりの製品です。(熱交換装置およびウェア 第7576853号)

     

    経口補水液・塩タブレットの準備

    工場作業中の水分・塩分補給は熱中症予防の基本です。効果的な水分・塩分補給のルールは以下のとおりです。

    • ● 喉が渇く前に水分補給を徹底
      ● 塩タブレットや塩飴を摂取
      ● 糖分・カフェインの摂りすぎを避けて無糖飲料を中心にする
      ● 経口補水液を冷蔵庫に常備する
      ● 個人用の保冷水筒を持参して自由なタイミングで補給

    • スポーツドリンクは糖分が多いため、長時間の作業では経口補水液の方がおすすめです。

    • 体調不良時の申告ルールを把握

    • 我慢は美徳という考えは熱中症対策では危険です。初期症状の段階で適切に申告できる職場文化こそが、重篤な事故を防ぐ最も確実な方法といえるでしょう。

    • 体調不良時に実践したい申告ルールは以下のとおりです。

    ● めまい・頭痛・吐き気・異常発汗を感じたらすぐに報告
    ●「少し変だな」という軽い違和感でも遠慮なく相談
    ● 申告後は必ず涼しい場所で休憩をとる
    ● 水分補給と体温測定で回復状況を確認
    ● 症状が改善しない場合は医療機関を受診

福利厚生として熱中症対策を進めたい企業担当者は、以下の記事を参考にしてください。

>> 福利厚生による暑熱対策&熱中症対策5選|高温環境で生産性向上を目指す企業事例

熱中症リスクを減らす職場づくりのポイント

暑さ対策は設備だけでなく職場の意識づくりも重要です。管理者と作業者が一緒になって工場の暑さリスクを共有し、自主的に対策を行う文化を醸成しましょう。以下のポイントも併せて取り組むと効果的です。

社内の意識改革を進める

熱中症対策は経営層の安全投資と位置付けましょう。管理者が熱中症リスクの情報を共有し、朝礼や掲示板、ポスターで啓発活動を行うことで、従業員の意識を高めます。

また、巡視や声掛けによって異変に早く気づく体制も構築しましょう。職場風土として無理をしない・させない文化を醸成し、作業者が体調不良を訴えやすく、管理者が受け止めやすい雰囲気を作ることが大切です。

管理者目線では作業者と対話する時間を設け、作業者目線では日々の健康管理に努めるといった役割分担で取り組むと、全員が主体的に暑さ対策に参加できます。

補助金・助成金を活用して冷房設備を導入する

工場の暑さ対策で効果的な設備投資を行う際、国や自治体の補助金制度を活用することで費用負担を軽減できます。

暑さ対策補助金として活用できる主な制度は以下のとおりです。

制度名 条件 補助率 対象設備例
エイジフレンドリー補助金 60歳以上を1名以上雇用する中小企業 1/2(上限100万円) ファン付き作業着、スポットクーラー、WBGT計、ウェアラブル端末など
業務改善助成金 事業場内の最低賃金を30円以上引き上げたうえで、生産性向上につながる設備投資を実施すること
  • 最低賃金1,000円未満:最大4/5最低賃金1,000円以上:最大3/4
空調設備の導入、換気設備の改善、休憩所の新設・改修など

出典:厚生労働省「エイジフレンドリー補助金
出典:厚生労働省「令和7年度業務改善助成金のご案内
※補助金・助成金の情報は変更される場合があります。申請の際は必ず厚生労働省など管轄省庁の最新情報をご確認ください。

夏前に準備したい工場の暑さ対策設備

工場の構造的な暑さ問題を根本的に解決するには、建物や設備への投資が効果的です。初期費用はかかりますが、長期的な省エネ効果や作業環境の改善により、投資回収が期待できる対策を厳選して紹介します。

屋根からの熱を防ぐ遮熱塗装

遮熱塗装とは、屋根や外壁に太陽光(特に近赤外線)を高反射する塗料を塗布する方法です。遮熱塗装により屋根の温度上昇を抑制し、屋内への輻射熱侵入を減らせます。結果、空調負荷を下げて稼働時間を短縮でき、省エネにもつながります。

ただし、塗膜が汚れたり劣化したりすると効果が落ちるため、施工品質や定期メンテナンスが重要です。また、塗装工事では屋根修理や足場組立も必要になるため、工期を確認して夏前に終わるよう手続きを進めることがポイントです。

屋根表面の温度を下げる屋根スプリンクラー

屋根散水は打ち水の原理を工場規模に応用したものです。屋根にスプリンクラーや散水システムで水を撒くと、気化熱で屋根の表面温度が低下します。屋根の表面が冷えると輻射熱も減り、室内温度の上昇を抑えられるのが特徴です。

空調負荷の低減に有効ですが、効果は散水量や屋根材の状態に左右されます。また、水資源確保や散水後の排水対策、屋根の耐水性なども事前に検討が必要です。

空調効率を高めるシーリングファン

天井から吊り下げる大型シーリングファンにより、工場内の空気を大きく循環させられます。冷房設備と組み合わせれば冷気が広範囲に拡散し、設定温度を高めても涼しく感じられるため、エアコンの節電にも寄与します。

比較的施工が容易な点も魅力です。ただし、導入前に天井高さや梁位置、羽根サイズ・回転数などを現場に合わせて設計する必要があります。

局所冷却に有効なスポットクーラー

スポットクーラーは特定エリアを集中的に冷却する装置で、工事不要で設置できる点が特徴です。工場内の熱がこもる場所や個別の作業エリアに直接冷風を送るため、必要な場所だけを素早く冷やせます。

設置が簡単で配管工事が不要なため、急ぎの場合や補助設備として使うのにも有効です。ただし冷却範囲は限られるため、工場全体の冷房には適しません。設置箇所・用途を明確にし、運転音や排熱、フィルター清掃など維持管理にも注意して選びましょう。

熱の侵入を防ぐ間仕切りカーテン

工場の出入口や作業ゾーンにビニールカーテン(遮熱ビニールカーテンや透明遮熱カーテンなど)を設置すると、熱気や輻射熱の侵入を抑えられます。ビニールカーテンは短工期・低コストで導入でき、稼働中の工場でも比較的影響が少ない点が魅力です。

暑い空気が入り込むエリアと冷房エリアをゾーニングしてカーテンで仕切れば、空調効率が向上し、必要な領域だけ冷房することが可能になります。材質は透明度・耐熱性・耐久性に注意し、設置場所(通行量や温度差)に応じたものを選びましょう。

まとめ

工場での効果的な熱中症対策は、夏本番を迎える前からの計画的な準備が重要です。2025年6月からのWBGT測定義務化を含め、法的要求も高まる中で、適切な対策は企業の責務といえるでしょう。

管理者は環境整備・体制構築・設備投資の観点から、作業者へは個々にできる準備と体調管理の観点から、それぞれの観点でできることを着実に実行することが大切です。補助金制度も活用しながら、持続可能で効果的な暑さ対策を進めてください。

「従業員の安全確保」「法令遵守」「作業効率維持」という3つの目標を同時に達成できる熱中症対策により、より良い職場環境を実現しましょう。早めの準備が、安心で快適な夏季操業につながります。


 

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